佐伯誠さんより「mama!milk / Duologue」へご寄稿いただきました。 2013.7.17

いちばん好きなのは暗黒映画で、
若いころのベルモンドが頬をそいだように痩せていて、
ひっそりと黙りこくって拳銃をいじっている、
そんなどうでもいいような一篇・・・、
できればジョゼ・ジョヴァンニの
原作か脚本であれば文句ないんだけれど・・・。
mama!milkをはじめて聴いたとき、
すぐに思い浮かべたのはモノクロの暗黒映画で、
路地の奥で音楽を聴くような遠いパトスに攫われて、
熱いものがこみ上げてうろたえた。
暗黒映画というのは、つまりは狭い界隈(ミリュー)の
ひっそりとした暮らしに注がれたまなざしのことで、
ドンパチがあったり隠語でまくしたてたりするけれど、
そこにあるのはコトバを奪われた人々の情愛の交わし合い、
海の中のように黙りこくった世界なのだ。
だから、映像にふさわしい音楽といったら、
手回しオルゴールやバンドネオンといった
雑味がたっぷりとある楽器の奏でるものが最上で、
mama!milkの生駒祐子さんのアコーディオンは
シシリアの工房でつくられたものだと聞いて、
やっぱりそういう血が流れているのかとうなずいた。
「ちっぽけな土地にひっそりと息づいているものほど愛おしい。
逆に愛しいものほど狭いところで
物音ひとつ立てずに生きている。」(ジョゼ・ジョヴァンニ)
おちぶれたものを励ますように、
これでもかと歓待してやまないmama!milk、
暑熱のたそがれに吹く恩寵の風、
涸いた大地にふりそそぐにわか雨だ。
佐伯誠

mama!milk / Duologue デュオローグ [ windbell four 120 ] 2013年7月19日発売
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